藤村の詩集には「錫の酒器」が詠まれている


島崎藤村 (明治5年〜昭和18年/享年71歳)

長野県に生まれる。生家は馬籠宿の本陣/庄屋である旧家。
明治30年に刊行した詩集「若菜集」にて名声を得る。
その後の一連の詩業は、近代詩上に大きな功績を残す。
さらに長編小説「破戒」によって、自然主義文学の作家として
地位を確立し、「夜明け前」などを発表する。


<「夏草」(明治31年12月発行)より>

 婚姻の祝の歌ー花よめを迎ふるのうたー 
 

君待つ宵のともしびは

いとど火影も花やかに

鶴なきわたる蓬莱の

千世のみどりを照らすかな

 

祝いの酒は香にあふれ

錫の提子をひたしけり

いざや門辺にたちいでて

君の来るのを迎えなむ

                   (後略)

◎藤村が詠んだ「錫の提子(ひさげ)」とは・・・

 錫の酒器で祝いの酒を湯にひたし、酒の香が台所よりほのかに漂い始めるころ、
今か今かと落ち着かない様子で、門辺で花嫁を待つ新郎の様子が目に浮かぶようです。
明治31年に発行の「夏草」に収録されているこの詩には、はっきりと「錫の提子」
詠み込まれています。明治時代に入り、錫器もより身近な道具として暮らしの中で
使われ出したことの証でしょうか。

 さて、この「提子」とはどんな酒器でしょうか・・・
本体を提げるための”つる”や”取っ手”の付いた胴長の酒器で、燗をするにも便利で
そのまま宴席に供されるものです。
徳利などより少し気の張った酒器といえます。
この詩の婚姻の宴席には本当に相応しいものです。<下の写真>


提子・岩石<ゆり工房>